ロイヤル ウースター(Royal Worceter)


ロイヤル ウースター(Royal Worceter)は、1751年に英国のウスター市で創業した英国の老舗陶磁器メーカーです。察しの良い方はお気付きかもしれませんが、「ウースター」と「ウスター」を書き分けています。「ウスター」と言えば、我々にもお馴染みの「ウスター ソース」の「ウスター」で、こちらも同じ地名の「Worceter」から来ています。「Worceter」の綴りからすると「ウースター」にすべきとも思いますが、耳で聞くと完全に「ウスター」に聞こえます。「ロイヤル ウースター」のブランド呼称が「ウ」ではなく「ウー」になっている理由は分かりませんが、この点は素直に長いものに巻かれようと思います。

閑話休題。日本語をアルファベット表記するときには、「ヘボン式」ローマ字が使われます。これはJames Curtis Hepburnというアメリカ人宣教師により確立された表記方法です。この「Hepburn」ですが、日本語表記する際には彼自身が「ヘボン」という綴り(?)を使っていたようです。一方、我々にもお馴染みの女優Katharine Hepburnは、同じHepburn一族の出自なのですが、こちらの表記には「キャサリン ヘプバーン」が使われます。慣れの問題でしょうか、「キャサリン ヘボン」だと違和感があります。これに比べると、同じ英語の綴りから来る「ウースター」と「ウスター」の日本語表記の違いは微々たるものに思えてきます。

さて、このロイヤル ウースターですが、医師のJohn Wallと薬剤師のWilliam Davisの二人が創業者です。「薬剤師」と書きましたが、英語の文献では「apothecary」という単語が使われています。この「apothecary」というのは古い英語で、意味はそれこそ「薬剤師」なのですが、今の英国では薬剤師のことを「chemist」と言うように、実際には薬の調合も含めて、今で言う化学屋さんの仕事をしていたのでしょう。勝手な想像なのですが、新しい陶磁器の製造方法を化学者として開発したWilliam Davisが、付き合いのあったJohn Wallに話を持ちかけ、この二人が15人のパートナーから4500ポンドの出資を受けて創業にこぎつけたのではないかと思います。

その後、1783年にFlight家に買収され、1788年に時の国王ジョージ3世からroyal warrant(王室御用達)を受けました。ただ、当時の状況は必ずしも芳しくはなかったようです。デザインは中国産の模倣で色彩は青と白がほとんど、価格面でも中国からの輸入モノや同業他社との競合が激しかったようです。その後、1792年に加わったMartin Barrにより梃入れが図られ、ボーンチャイナの製造にも成功し、業績が回復します。また、1807年にはPrice of Wales(皇太子)の、1808年にはPrincess of Wales(皇太子妃)のroyal warrantが与えられます。なお、このroyal warrantですが、「王室御用達」というよりも「英国王室各人の御用達」と言うべきかもしれません。ロイヤル ウスターは今もroyal warrantを受けていますが、「Her Majesty Queen Elizabeth II」に対してです。

その後、英国に不況の波が押し寄せ、1976年にロイヤル ウースターはスポードと合併しました。そして、工場を窯業で有名な英国のStoke-on-Trentに集約する大幅なリストラも行われましたが、業績は回復せず、2009年にPortmeirion Pottery Groupに商標を含む知的財産権が売却されました。